1990年代半ば、スウェーデンのエリクソン社に所属していたオランダ人技術者ヤープ・ハールツセン博士の手によって、短距離の無線通信技術であるBluetoothの基礎が構築された。当時、デバイス間をケーブルなしでつなぐという試みはあまりに挑戦的であり、通信の安定性や消費電力の壁が大きく立ちはだかっていた。1998年には業界標準化を推進するBluetooth SIGが設立され、世界共通規格としての普及が本格化する。
初期のワイヤレスヘッドセットはモノラル音声の通話用途が中心であり、音楽鑑賞に耐えうるものではなかった。帯域幅の制限と圧縮に伴う音質劣化が著しく、ピュアオーディオの世界からは冷ややかな視線を向けられていたのも事実だ。しかし、この小さな電波の試みが、後に世界中の音響体験を根底から覆す火種となった。