かつて「現代のベートーベン」と謳われ、社会現象となった人物がいた。佐村河内守氏である。両耳の聴力を完全に失った「全ろうの作曲家」として脚光を浴び、彼が手掛けたとされた作品は多くの人々の涙を誘った。特にクラシック作品としては異例のCD大ヒットを記録した『交響曲第1号 HIROSHIMA』は、悲劇のストーリーと共に社会へ広く浸透していった。
このブームを決定づけたのはメディアの拡散力だった。特に日本放送協会(NHK)が制作・放送したドキュメンタリー番組は、厳しい障害と闘いながら壮大な交響曲を書き上げる孤高の音楽家というイメージを決定づけた。作品のドラマ性と感動的な背景に引き寄せられた音楽業界は彼を絶賛し、クラシック界の一大スターとして持ち上げたのである。