なぜ大相撲において、不正な勝利の融通が長く「必要悪」のように存在し得たのか。その背景には、相撲界独特の番付制度と給与体系の歪みがある。関取(十両以上)であり続けるか、幕下に落ちるかによって、力士の収入や待遇、さらには部屋での立場には天と地ほどの差が生じるからだ。
「勝ち越し(8勝)」の一星は、力士の人生や死活問題を左右する。そのため、「困ったときはお互い様」という互助会的な意識が土俵裏で芽生えやすかったとされる。数多くのスポーツノンフィクション作品でも描かれている通り、それは個人的な金銭欲望というよりも、閉ざされた共同体の中で生き残るための「暗黙の了解」として機能していた面が大きい。
この特殊なインセンティブ構造こそが、長年にわたり歪んだ慣習を温存させた元凶であった。個人的な倫理観の欠如だけでなく、システムそのものが不正を誘発する土壌をつくっていたと言わざるを得ない。