現在の混迷を理解するには、前国王であるラーマ9世(プーミポン)の存在を避けて通ることはできない。70年にわたり在位したラーマ9世は、農村開発事業や自給自足を唱える「足るを知る経済」の提唱を通じ、国民から半ば神として絶大な崇敬を集めた。流血のクーデターが起きるたび、国王の裁定が国家の危機を救ったという記憶が国民の心に深く刻まれている。
父王が築き上げた絶大な威信は、同時に後継者にとって巨大な影となった。父のような献身的な社会活動を見せないラーマ10世に対し、国民のノスタルジーと失望が交錯する。過去の「偉大な父」の遺産で食いつなぐ王室のブランディングは、もはや若い世代には通用しなくなっているのが現実だ。