矢野の作品を見ると、すぐに気づくことがある。線が生きている。
彼の描く線は、単なる輪郭ではない。線そのものが呼吸し、動き、感情を帯びている。この線の質感は、彫刻科で学んだ立体感覚と、任天堂で磨いたデジタル技術、そして古典絵画から吸収した美意識が三位一体となって生み出されている。
色彩についても独特だ。矢野の色使いは派手ではないが、深い。見る者の記憶の奥底に触れるような、ノスタルジックでありながら新鮮な色彩。これはゴッホの情熱的な色彩感覚と、仏像彫刻の褪色した彩色が時間を経て獲得した美しさの両方から影響を受けている。
デジタルツールの使いこなし
現在の矢野はAdobe PhotoshopとWacomタブレットを主要ツールとして使用している。だが彼はツールに使われるのではなく、ツールを使いこなしている。デジタル技術は彼にとって表現の可能性を広げる手段であり、最終的な作品の価値を決めるのは技術ではなく感性だと理解している。
レイヤー構造を巧みに活用し、テクスチャを重ね、光と影を丁寧に調整する。この作業プロセスは、彫刻家が粘土を積み上げ削り出していく行為に似ている。矢野にとってデジタルキャンバスは、彫刻のための空間なのだ。