SABU監督といえば、『弾丸ランナー』や『DIVE!!』などに代表される疾走感あふれるアクションと、不条理な展開で知られる稀代のストーリーテラーだ。しかし本作において、彼は自らのトレードマークであった「走り」を封印した。男は走らない。ただ静かに、淡々と歩く。
この大胆な演出手法の転換は、世界各国の映画祭で大きな衝撃を与えた。特に第53回ベルリン国際映画祭のNETPAC賞(最優秀アジア映画賞)を受賞した際には、ヨーロッパの批評家陣から「サイレント映画の伝統と現代の虚無感を融合させた至高の芸術」と絶賛された。セリフを徹底的に削ぎ落とすことで、人間の表情や背景の街並みが持つ「雄弁さ」を極限まで引き出したSABU監督の挑戦は、映画表現の新たな可能性を切り拓いたのだ。