名取裕子の映画出演作において、ターニングポイントとして真っ先に名前が挙がるのが1984年公開の『序の舞』(中島貞夫監督)と、1987年公開の『吉原炎上』(五社英雄監督)です。どちらの作品でも、彼女は単なる露出にとどまらない、登場人物の情念や業を体現する大胆な濡れ場シーンを演じ切りました。
明治の日本画家・上村松園をモデルにした『序の舞』では、絵画への情熱と許されぬ愛の間で葛藤する主人公・津野島勢以を熱演。芸術家としての魂が目覚める瞬間を、息をのむような美しい肢体とともに表現し、キネマ旬報をはじめとする批評筋から絶賛を浴びました。単なるお色気描写ではなく、女性の自立と業を描くための必然的なシーンとして昇華させた手腕は、若手女優の枠を完全に超えていました。
そして彼女の評価を決定づけたのが、絢爛豪華かつ壮絶な遊郭の世界を描いた『吉原炎上』です。花魁の紫太夫(九重)を演じた名取裕子は、美しさと哀しさを極限まで研ぎ澄ました濡れ場を披露。スクリーン越しに観客を圧倒するその存在感は、日本アカデミー賞優秀主演女優賞の受賞という形で結実しました。