「酒は百薬の長」という言葉の初出は、中国の後漢時代に編纂された歴史書『漢書(かんじょ)』の「食貨志(しょっかし)」にあります。紀元前1世紀から紀元後1世紀にかけて存在した王朝「新」の皇帝・王莽(おうもう)が発布した詔勅(皇帝の命令)の中に、このフレーズが登場します。
王莽は国家財政を立て直すため、塩や鉄、酒などの生活必需品を国家が独占販売する「専売制」を導入しました。その際、国民に対して酒の購入を促し、国家の専売事業を正当化するために打ち出した宣伝文句が「夫れ塩は食肴の将、酒は百薬の長、嘉会の好、鉄は田農の柄」(塩は料理の基本であり、酒はあらゆる薬の中で最も優れたもの、祝宴に欠かせない良きものであり、鉄は農業の要である)という文言でした。
つまり、この言葉は医学的な効能を証明した論文や医師の知見ではなく、国家が酒税・専売利益を吸い上げるための政治的プロパガンダ(宣伝コピー)として誕生したのが歴史的な真相です。健康のために飲酒を勧めたわけではないという事実は、現代の私たちがまず知っておくべき決定的な前提といえます。