金正恩氏があの髪型を採用した最大の理由は、実父である金正日(キム・ジョンイル)総書記ではなく、祖父である金日成主席の若かりし頃の姿を完全に再現するためです。
1990年代の深刻な経済危機(苦難の行軍)を経験した北朝鮮国民にとって、金正日時代は困窮の記憶と結びついています。一方、金日成時代は朝鮮戦争後の復興期であり、社会主義体制が最も安定していた「古き良き時代」として人々の脳裏にノスタルジーとともに刻まれています。後継者としての経験が浅かった金正恩氏は、祖父の姿を自らに重ね合わせることで、国民の郷愁と敬愛の情を一気に掌握しようと試みました。
髪型だけでなく、黒の人民服の着用スタイル、恰幅の良い体型、歩行時の手の振り方、さらには肉声のトーンに至るまで、徹底して金日成主席の仕草をコピーする「ビジュアル・クローニング」が実行されました。金日成氏が1930〜40年代の抗日パルチザン時代から建国初期にかけて好んでいたオールバックの刈り上げスタイルこそが、覇気ヘアの原型なのです。