アイヌ語で「未来」や「新年」を意味する「アシリパ(新しい年)」という名は、新しい時代のアイヌの女性として生きてほしいという願いを込めて付けられた名前です。しかし、当時の日本政府による戸籍制度上、彼女には公的な和名が存在していました。それが小蝶辺 明日子(こちょうべ あすこ)です。苗字の「小蝶辺」は、コタン(村)のあった土地の呼び名に由来し、「明日子」という漢字には未来を明るく照らす存在という想いが宿っています。
一方で、アイヌの風習に基づいた幼少期の名前(幼名)はエカシオトンプイでした。アイヌ語で「祖父の尻の穴」を意味するこの衝撃的な名前は、決して侮蔑ではなく、病魔や悪霊(ウェンカムイ)が嫌がって寄り付かないようにわざと汚い名前を付けるという、伝統的な魔除けの儀礼によるものです。
作中開始時点におけるアシリパの年齢はおよそ12歳から13歳前後と推察されます。日露戦争直後の明治40年前後という過酷な時代背景において、彼女は幼い子どもでありながら、山で生き抜く一人前の狩人(マタンプシを締めた狩猟者)としての圧倒的な知恵とサバイバル能力を備えていました。