医療の現場において、自己愛性パーソナリティ障害の根本的な治療は極めて困難とされています。最大の障壁は、当事者自身に「自分に問題がある」という病識が決定的に欠如している点です。彼らが精神科やカウンセリングを訪れる動機は、パーソナリティの改善ではなく、「周囲が自分を正当に評価しない」「配偶者に逃げられて鬱になった」といった二次的な不適応症状がほとんどです。
医学的に治療の足がかりが生まれるとすれば、それは人生において完全な破滅を経験し、自らの万能感が完全に打ち砕かれた「ナルシシスティック・クライシス(自己愛の危機/底つき体験)」を迎えた瞬間に限られます。
長期間にわたる専門的な精神分析的心理療法やスキーマ療法によって、脆弱な自我を少しずつ育て直すアプローチは存在しますが、それには本人の激しい苦痛と数年単位の自発的努力が求められます。周囲が「説得して治させよう」と試みることは、現実的にはほぼ不可能です。