この奇跡的な作品の舵を取ったのが、名匠・山田洋次監督である。松竹株式会社が誇る伝統的な人情劇の系譜を引き継ぎながらも、従来の枠組みを大胆に打ち破るリアルな人物描写が徹底された。監督の指示は緻密を極め、登場人物が食べるラーメンの一杯、飲むサイダーの一口にまで人間の欲望と悲哀を投影させた。
俳優陣に対する要求は容赦がなかった。カメラが回っていない時間すら役柄として生きることを求められる環境のなかで、キャスト陣の間には独特の連帯感と緊迫感が同時に漂っていた。妥協を一切許さない演出陣の情熱が、あの夕暮れの美しさと胸を突く感動を結実させたのだ。