警視庁は当初の麻薬取締法違反(使用・譲渡)に加え、より刑責の重い保護責任者遺棄致死罪で押尾学を追送検・起訴しました。2010年9月、東京地裁で開かれた公判は、2009年に導入されたばかりの裁判員裁判として著名人が裁かれる初の事例として全国的な注目を集めました。
検察側は「女性を見捨てて逃走した不作為は極めて悪質であり、通報していれば救命できた」として懲役6年を求刑。一方の弁護側は「致死の責任はなく、救命の可能性はすでに失われていた」として致死罪について無罪を主張しました。裁判員たちに委ねられた最大の争点は、「迅速に通報していれば女性は助かったのか」という因果関係の有無でした。
東京地裁の裁判員と裁判官が下した結論は、保護責任者遺棄致死罪の成立を否定し、保護責任者遺棄罪にとどめるというものでした。法医学上、女性が摂取したMDMAの血中濃度が極めて高く、仮に発症直後に救急車を呼んでいたとしても救命できた可能性には合理的な疑いが残ると判断されたためです。法的な「疑わしきは被告人の利益に」という原則が厳格に適用された結果となりました。