心肺停止は予期せぬ雷光のように突然発生するように思われがちですが、実際には身体が発するSOSサインが直前に潜んでいる事例が少なくありません。根本的なトリガーは、心臓自体の異常に起因する「心原性」と、呼吸不全や外傷などに起因する「非心原性」の2系統に大別されます。
国内の心原性心停止において圧倒的多数を占めるのが、急性心筋梗塞や重症不整脈(心室細動・心室頻拍)です。血管の閉塞や心筋の過伸展により、心臓が突如として痙攣状態に陥り、血液を全身へ送り出せなくなります。対して非心原性では、異物誤嚥による窒息、溺水、大量出血を伴う重度外傷、脳卒中(くも膜下出血など)、薬物過敏症によるアナフィラキシーショック、冬場のヒートショックに伴う急激な血圧変動が代表格です。
見落としてはならないのが、心肺停止の主な原因と前兆となる身体の異変です。心筋梗塞の前兆として現れる症状には、以下のような特徴があります。
・胸部の中央から広がる圧迫感や激しい絞扼感(「胸の上に重い岩を乗せられたような苦しさ」)
・放散痛(左肩、背部、首、顎、みぞおち付近に抜ける鈍い痛み)
・冷や汗を伴う息切れや吐き気、原因不明の極度の脱力感
・目の前が真っ暗になる失神発作や激しい動悸
特に警戒すべきは、意識を失った直後の要救助者に見られる死戦期呼吸(あえぎ呼吸)の存在です。心臓が止まった直後の数分間、顎をしゃくり上げるようにして「下顎だけでパクパクと息を吸うような仕草」を見せることがあります。現場に居合わせた一般市民がこれを「まだ呼吸をしている」と誤認し、胸骨圧迫の開始を躊躇してしまうケースが後を絶ちません。死戦期呼吸は肺の機能的な呼吸ではなく、脳幹が停止直前に放つ反射に過ぎず、医学的には「呼吸なし(心肺停止)」と断定して即座に蘇生を開始すべき緊急事態です。