微量ずつアレルゲンを身体に接触させることで、なぜアレルギー症状が出なくなるのか。その深層には、生体の免疫系が備える精妙な調節機構が存在します。
即時型アレルギー(Ⅰ型アレルギー)の本態は、抗原が肥満細胞表面の特異的IgE抗体2分子以上と同時に結合する「架橋形成」です。架橋が成立すると、シグナル伝達によって細胞内の顆粒が細胞膜と融合し、ヒスタミン、ロイコトリエン、血小板活性化因子といった起炎物質が激しく放出(脱顆粒)されます。これが毛細血管の拡張や気道収縮を招きます。
脱感作療法では、この架橋形成が起きないほどの超極微量のアレルゲンから接触を開始します。微量のアレルゲンが受容体に少しずつ結合すると、大規模な脱顆粒の引き金を引くことなく、肥満細胞内のカルシウム流入シグナルが一時的に減弱し、メディエーターの合成経路がブロックされます。専門医の管理下で数十分〜数時間ごとに微増させていくと、肥満細胞は刺激に対して麻痺した状態、すなわち「不応期」へと誘導されます。これが急性期の脱感作メカニズムです。
一方、月単位・年単位で進められるアレルゲン免疫療法では、体内のリンパ球バランスが劇的に変化します。アレルギー反応を促進するTh2細胞の働きが抑えられ、免疫の暴走を監視する制御性T細胞(Treg)が活発化します。さらに、アレルゲンを先回りして捕まえ、IgEとの結合を物理的に阻害する「IgG4抗体」が血中に大量産生されます。この二重の防御壁によって、アレルゲンが体内に侵入しても肥満細胞が反応しない「持続的免疫寛容」が成立するのです。