かつてのおせち料理といえば、三日三晩主婦が包丁を握らずに済むよう、濃い味付けで日持ちさせる保存食としての役割が強かった。しかし、保存技術が発達し、一年中あらゆる食材が手に入る現代において、その意義は大きく変化している。形骸化した豪華さを競うのではなく、家族が無病息災を祈り、新しい一年を心穏やかに迎えるための節目としての役割だ。
土井善晴氏の料理研究における哲学は、まさにこの原点回帰にある。無理をしてたくさんの品数を並べる必要はない。黒豆ひとつ、伊達巻ひとつでも、丁寧に作ったものがひとつあれば、食卓には立派な正月の気が満ちる。過度なプレッシャーから解放された手作り料理こそが、現代の家庭に必要な温もりを与えてくれるのだ。