施主がお礼やご祝儀の準備に追われる最大の背景には、「現金を包まないと職人の機嫌を損ね、手抜き工事をされるのではないか」という心理的不安が存在します。SNSや大手Q&Aサイトでも「ケチったと思われて雑に施工されたら困る」という切迫した相談が定期的に投稿されています。
しかし、住宅業界の実態を検証すると、この不安は完全に根拠のない杞憂であると断言できます。都内および近郊で30年以上の現場経験を持つベテラン棟梁は、専門誌の取材に対して次のように語っています。
「今どきご祝儀が出ないからといって釘を1本抜くような大工がいたら、業界から即座に追放されますよ。プレカット加工された木材を図面通りにミリ単位で組み上げるのが現代の建築です。渡された金額で仕事の精度を変えるような職人はいません。もちろん、お礼をいただければ嬉しいのは事実ですが、それはあくまで『ありがたいな』という気持ちの問題であって、施工品質とは別次元の話です」(現場歴34年のベテラン棟梁)
現代の木造住宅は、「住宅瑕疵担保履行法」に基づく専門検査員による配筋・構造検査や、行政・第三者機関による中間検査が幾重にも義務付けられています。職人の個人的な感情ひとつで構造耐力や防水性能に影響を及ぼすような手抜き工事ができる構造にはなっていません。大工へのお礼は「工事の保険」ではなく、あくまで「無事に骨組みが上がったことへのねぎらい」として捉えるのが健全なスタンスです。