二の鳥居をくぐり、階段を登って山王神社の境内に足を踏み入れると、圧倒的な生命力で参拝者を包み込むのが、2本の巨大な「被爆クスノキ」です。樹齢500年から600年と推定されるこの大楠は、原爆投下の瞬間に直撃した熱線と爆風によって主幹の上部がへし折られ、青々としていた枝葉は一瞬にして焼き尽くされました。当時は幹が炭化し、「この木は完全に死に絶えた」と誰もが諦めていました。
しかし、被爆からおよそ2年が経過した1947年頃、黒焦げの幹の裂け目から鮮やかな緑の新芽が萌出しました。草木も生えないと言われた焦土の長崎において、自力で息を吹き返した大楠の姿は、肉親や住居を失い絶望の淵に立たされていた市民にどれほどの勇気と生きる希望を与えたか計り知れません。長崎出身のシンガーソングライター・福山雅治氏が作詞・作曲した楽曲『クスノキ』のモデルとなったことでも全国的に知られています。
2026年現在のクスノキは、長崎市による土壌改良や樹勢回復治療、市民ボランティアによる保全活動の甲斐もあり、青葉を満面に繁らせています。幹に近づいて目を凝らすと、当時の爆風で吹き飛ばされて幹にめり込んだ小石や瓦の破片、黒く炭化した樹皮の痕跡を今でもはっきりと目視できます。破壊の爪痕と再生の息吹が同居するこの空間は、二の鳥居と対をなす祈りの聖地となっています。