山寺さんの凄みが最も発揮されるのが、同一エピソード内に自身が担当するキャラクターが何体も同時に登場する「兼ね役」のシーンです。アニメ業界では予算やスケジュールの都合で兼ね役が発生することは珍しくありませんが、山寺さんの場合は次元が異なります。
例えば、パン工場でジャムおじさんが話し、庭でめいけんチーズが吠え、外からカバおくんが駆け込んできて、さらにかまめしどんが騒ぎ出すという展開が日常茶飯事で描かれます。画面上では完全に異なる人格を持つ4人がテンポよく掛け合っていますが、アフレコ現場のマイク前に立っているのは山寺さん一人です。
驚くべきことに、別々に録音して後から合成するのではなく、マイクの前に立ったまま瞬時に声を切り替えてワンテイクで収録するケースも多々あります。動物の鳴き声から甲高い少年の声、陽気な職人風の声、包容力あふれる老人の声まで、ミリ秒単位で発声器官をコントロールする技術力は、同業者であるプロ声優たちからも「もはや人間業ではない」「生きる伝説」と称賛されています。