瞳そのものが美しく描けていても、それを取り囲む周辺パーツの構造が破綻していれば、鑑賞者は即座に違和感を抱きます。リアルな目元を構成するうえで決して疎かにできないのが、「まつ毛」「まぶたの折り返し」「目頭の涙丘」「涙袋」の解剖学的表現です。
まつ毛を描く際、最も初心者が犯しやすいミスは、まぶたの輪郭線から直角に規則正しく毛を生やしてしまうことです。本物のまつ毛は、アイラインの外枠からではなく、まぶたの縁の「厚み(粘膜部分)」の手前側から生えています。毛の軌跡は直線ではなく、根元から一度斜め下(上まぶたの場合)へ突き出た後、強いカーブを描いて上空へ跳ね上がります。
さらに、まつ毛は一本ずつ均等に生えているのではなく、2〜3本が交差して小さな束を形成しています。描画する際は、すべての毛を均一の太さで描くのではなく、「主となる太い毛束」を数カ所に配置し、その周囲に細い遊び毛を散らすのが自然に見せる鉄則です。また、まつ毛自体の存在感と同じくらい重要なのが、「まつ毛が眼球に落とす細い影」です。強烈な順光でない限り、上まぶたのまつ毛の影が虹彩や白目の表面にわずかに落ちるため、このシャドウを薄く入れるだけで眼球の表面張力と濡れたようなリアリティが格段に増します。
次に、まぶた周辺の皮膚感についてです。目頭に位置するピンク色の小器官「涙丘(るいきゅう)」は、キャラクター絵では省略されがちですが、リアル調イラストでは生命感の要となります。涙丘は常に水分で覆われているため、白目やまぶたの皮膚よりもピンポイントで強い光を反射します。ここに微細な白色ハイライトを1点置くだけで、生きている生体の湿度が立ち現れます。
涙袋(下まぶたの膨らみ)は、眼輪筋という筋肉の隆起によって形成されます。単に平行な二重線を引くだけでは、たるんだ皮膚やクマに見えてしまいます。涙袋を健康的な立体として見せるためには、中央部を最も厚くし、目頭と目尻に向かってなだらかにフェードアウトさせる陰影設計が必要です。特に下まぶたのキワには、眼球との境界に溜まる「涙のメニスカス(表面張力による液体の膜)」が存在するため、皮膚と眼球の境目に沿って極めて細い光の反射ラインを通すことで、乾燥した絵肌から潤いのある瑞々しい皮膚感へと劇的に変化します。