横浜プリンスホテルの解体計画が持ち上がった当時、建築界や歴史愛好家から最も懸念されたのが、敷地内に佇む洋館の行方でした。それが、昭和12年(1937年)に建てられた東伏見宮別邸(横浜プリンスホテル貴賓館)です。
この建物は、木子幸三郎が設計を手がけた瀟洒な鉄筋コンクリート造2階建ての近代和洋折衷建築。東伏見宮邦英王(のちに青蓮院門跡門主・東伏見慈洽)の別邸として建てられ、戦後GHQの接収を経て西武グループへ引き継がれました。ホテル営業時は特別なVIPを迎える特別な迎賓館や高級料亭、結婚式場として使用されてきました。
再開発の際、東京建物などの開発陣は解体を選ばず、約2年をかけて耐震補強と当時の装飾意匠の精密な復元を実施しました。その結果、外観の端正なスパニッシュ瓦やスクラッチタイル、内装の格天井やステンドグラスが見事に蘇り、横浜市指定有形文化財・国登録有形文化財として未来へ継承されることになったのです。
横浜プリンスホテル現在における貴賓館は、結婚式場およびフレンチレストラン「リストランテ 貴賓館」として営業を継続しています。マンション住民の記念日ディナーはもちろんのこと、一般の来訪者も格式高い空間でランチやアフタヌーンティーを楽しむことが可能です。「歴史ある建造物を単なる博物館に閉じ込めるのではなく、生きた日常の場として活用する」という、日本の近代建築保存における最高水準のモデルケースとなっています。