華々しい結婚劇の背景には、琴奨菊が決して忘れることのできない深い心の傷と、それを二人で乗り越えた試練の歴史が刻まれています。
時計の針を少し巻き戻すと、琴奨菊は大関昇進直後の2012年秋、一般女性との婚約を一度正式に発表していました。しかし、そのわずか数か月後となる2013年2月、突如として婚約解消という極めて異例の事態に追い込まれます。会見で語られた理由は「人生観や価値観の相違」という言葉に集約されていましたが、大関という国民的注目を浴びる立場での破談は、彼のプライドと精神状態を粉々に打ち砕きました。
本場所での成績は乱れ、土俵下で見せる表情には苦悩が色濃くにじみ出ていました。世間からの容赦ない詮索や好奇の目に晒され、人間不信に陥りかけていたこのどん底の時期に、変わらぬ温かさで寄り添い続けたのが祐未さんでした。
祐未さんは、大関という地位や名声ではなく、傷だらけになって帰宅する「菊次一樹(琴奨菊の本名)」という一人の生身の人間に向き合いました。口先だけの励ましではなく、激しい稽古による身体の炎症を抑える食事管理を独学で徹底研究し、アスリートフードマイスターの民間資格を取得。日々の献立を一から見直し、塩分や脂質を抑えつつ爆発的なスタミナを維持できる特別メニューを開発して体質改善を支えました。
「この人の苦しみを少しでも軽くしたい」という無償の献身が、琴奨菊の折れかけた心に再び闘志の火を灯したのです。どん底の絶望を共有したからこそ、二人の結びつきは表面的な恋愛感情を超えた、強固な戦友としての絆へと昇華していきました。