花袋のもう一つの代表作が、絶望の中に生きた青年の一生を描いた『田舎教師』だ。「四辺はただ稲の海である」という有名な冒頭の一節に象徴されるように、雄大な自然とそこに生きる人々の情景描画は極めて美しい。その原風景となったのが、彼の故郷である群馬県館林市とその周辺地域である。
城下町としての歴史と、豊かな水辺に囲まれた館林の風土が、花袋の写実的な眼差しを養ったことは疑いようがない。館内の窓から広がる風景と作品の一節を重ね合わせるとき、来訪者は文学が生まれた「現場」に立ち会っているかのような錯覚を覚えるだろう。