『平成教育委員会』が現代のテレビ史に刻んだ最大の功績は、「私立中学入試の過去問」をエンタメコンテンツとして昇華させたことです。それまでの中学受験は、一部の教育熱心な家庭だけが知る閉ざされた世界でした。しかし、番組が名門校の過去問をスタジオの大人たちにぶつけたことで、世間の受験に対する認識は180度覆ることになります。
出題された問題の多くは、年号の丸暗記や難解な数式の計算ではありませんでした。「折り紙を3回折ってハサミで切り込みを入れたとき、広げるとどんな図形になるか」「1本のロウソクが燃え尽きる時間を使って、特定の時間を正確に測るにはどうするか」といった、柔軟な空間把握能力や論理的思考力、発想の転換を求める問題が中心でした。
当時、東大卒や京大卒の肩書を持つ高学歴タレントが頭を抱えて唸る横で、小学生がスラスラと正解を導き出すVTRが流れると、お茶の間の大人は衝撃を受けました。「受験勉強=詰め込み教育の悪弊」というステレオタイプが根強かった90年代初頭において、「名門私立が求めているのは、知識の量ではなく頭の柔らかさである」という事実を、テレビの前の何百万人もの親たちに知らしめたのです。この番組のヒットが契機となり、90年代中盤以降の中学受験ブームが一気に加速したという教育社会学的な指摘は少なくありません。