戦火が激化するイギリス国内での量産に限界を感じたフローリーらは、リスクを冒して大西洋を渡りアメリカへ赴いた。イリノイ州ピオリアの研究所と連携し、トウモロコシの浸出液(CSL)と特殊な青カビ株を利用した深部発酵法を確立。これにより、それまでの製薬産業を一気に巨大な工業量産体制へとシフトさせることに成功する。
特筆すべきは、研究チームが「人類の福祉のため」としてペニシリンの特許を個人的に所有しなかった点だ。利権を追及せず広く共有された技術は、ノルマンディー上陸作戦をはじめとする戦場の救急医療に間に合い、数え切れない兵士の命を救った。近代的な製薬産業の倫理的基盤は、この無私無欲な決断の上に築かれたと言っても過言ではない。