映画『オズの魔法使い』においてトト役を務めたのは、1933年生まれのメスのケアーン・テリア「テリー(Terry)」です。名ドッグトレーナーであるカール・スピッツ(Carl Spitz)氏によって訓練されたテリーは、映画史に残る数々の伝説を残しました。その中でも特に有名な事実が、当時の人間俳優を遥かに凌ぐ破格の出演料です。
当時、世界は1929年の世界恐慌の余波の中にあり、アメリカの一般労働者の平均週給は約20〜30ドル(年収にして約1,300ドル程度)でした。ところが、MGMがテリーの調教・出演に対して支払った金額は週給125ドルに達していました。これは当時の一般家庭の平均収入の4倍から6倍に相当する高額報酬です。
さらに映画界内部の待遇と比較すると、その格差はより浮き彫りになります。劇中でマンチキン国の住人(マンチキンたち)を演じた100名以上の小人症俳優たちの当時のギャランティは週給50ドル〜100ドル前後であったと記録されています。つまり、犬のトトは人間のキャストよりも高給を得ていたことになります。なお、当時16歳で主演を務めたジュディ・ガーランドの週給は約500ドルであり、映画界におけるテリーのバリューが主演級に迫る異例の扱いだったことが窺えます。
テリーがこれほどの高給を獲得できた背景には、調教を担当したカール・スピッツ氏が開発した「サイレント・シグナル(手信号)」による高度な訓練がありました。騒がしい撮影現場や爆発音、巨大な送風機が唸るテクニカラー撮影の過酷なセット内で、監督の指示通りに完璧に演技できる犬は当時極めて希少であり、代えの利かないスーパースターとして評価されていたのです。