全国で顔を知られながら、男はどこに隠れていたのか。その答えは、海を隔てた岡山県岡山市中区の閑静な住宅街にあった。逃亡生活は11年5か月に及んだ。男は「小笠原準一」という偽名を名乗り、ひとりの女性と同居生活を送っていた。
捜査記録や近隣住民の証言を再検証すると、潜伏の実態は驚くほど平凡で、かつ徹底した警戒に満ちていた。男は昼間に外出することを極力避け、同居女性が働く間、アパートの室内で息を潜めていた。外出時も帽子を目深にかぶり、誰とも目を合わせない。健康保険証を持たないため医療機関には一切かからず、体調を崩しても市販薬で耐え忍んでいたという。
逃亡劇の幕切れは、あまりにも突然だった。2012年10月、男は潜伏先のアパートで倒れ、心不全により急死した。同居女性が警察に通報した際も「小笠原さん」として処理されかけたが、遺体の指紋を採取した警察庁のデータベース照合によって、死亡した男こそが全国指名手配されていた小池俊一本人であることが判明した。法廷で罪を償うことなく訪れた死。それは追う側にとっても、遺族にとっても、最悪の形で訪れた幕引きだった。