伊集院静の人生を語るうえで、女優・夏目雅子との出会いと別れを避けて通ることはできない。ふたりが出会った当時、彼女はまさに輝くばかりの光を放つ国民的女優であり、彼は新鋭のアートディレクターだった。
激しい恋の末に結ばれたふたりだったが、幸福な結婚生活はわずか1年足らずで悲劇的な終わりを迎える。夏目雅子が27歳の若さで白血病により急逝したのだ。最愛の妻を失った深い喪失感と絶望。彼はしばらくの間、酒とギャンブルに溺れ、放浪の日々を送ることになる。しかし、その底知れぬ哀しみこそが、彼を小説執筆へと向かわせる原動力となった。伝説的エピソードとして語り継がれるこの苦悩の時期が、後に日本文学史に刻まれる数々の名作を紡ぎ出す契機となったのである。