二人の出会いは1970年代初頭、東京の小さな下宿先だった。当時すでに世界的な冒険者として名を馳せ始めていた直己だが、普段の佇まいは驚くほど物静かで、極めてシャイな青年だったという。一方の公子さんは、下宿先の大家の娘。穏やかで芯が強く、飾らない人柄だった。
周囲が抱く「豪快な探検家」という偶像に惑わされることなく、公子さんは直己の純粋さと、山に向かわずにはいられない業(ごう)のような孤独を見抜いていた。「この人は冒険をやめられない」。そう直感しながらも、1974年に二人は婚姻届を提出する。危険だからと引き止めるのではなく、彼の生きる理由そのものを尊重するという、途方もなく重い覚悟を伴った結婚だった。