野球というスポーツは、静と動が極端に入り交じる。打席に入るまでの長い待ち時間や、投手の1球ごとに訪れる静寂の中で、いかに高い集中状態を維持するか。ここで威力を発揮するのが、噛むという行為そのものだ。咀嚼運動が脳の血液循環を促し、判断力や反応速度を高める効果はスポーツ科学の分野でも証明されている。
かつての名選手たちも、試合中に口を動かすことでプレッシャーを逃がしていた。タバコ排除の運動が進んだ1980年代から1990年代にかけて、ベンチでの「噛む文化」はガムや種へとシフト。単なる代用品にとどまらず、試合のテンポや間合いを取るための道具としてダグアウトに定着していったのだ。