連合王国の歴史的重層性は、世界で最も認知されている国旗の一つ「ユニオンフラッグ(通称:ユニオンジャック)」のデザインにも克明に刻まれています。
ユニオンジャックは、一人のデザイナーが一朝一夕で作った幾何学模様ではなく、連合を形成した各国の守護聖人の十字旗を物理的にレイヤー合成したものです。
- イングランドの旗:白地に赤い十字(聖ジョージ・クロス)
- スコットランドの旗:青地に白い斜め十字(聖アンドリュー・クロス)
- アイルランドの旧旗:白地に赤い斜め十字(聖パトリック・クロス)
1606年にイングランドとスコットランドの同君連合旗として原型が作られ、1801年のアイルランド統合時に聖パトリックの赤斜め十字が加えられて現在の意匠が完成しました。アイルランドの斜め赤線が白地の中央からわずかに反時計回りにずれて配置(オフセンター)されているのは、スコットランドの白い斜め線と重なって消えてしまわないよう配慮した結果です。
ここで多くの人が抱く疑問が、「なぜウェールズを象徴する赤いドラゴン(あるいは聖デイヴィッドの黄色い十字)はユニオンジャックに入っていないのか?」という点です。
その理由は極めてドライな歴史的力関係にあります。最初のユニオンフラッグが制定された1606年時点で、ウェールズはすでに1536年の併合法によって「イングランド王国の一部」として扱われており、独自の主権国家としての枠組みを法的に喪失していたためです。現代のウェールズ住民の間では、国旗へのシンボル追加を求める声が定期的に議論に上がりますが、歴史的経緯とデザインの調和の観点から現状維持が続いています。