音響の世界において、協和と不協和を分ける境界線はきわめて数学的だ。心地よく溶け合うオクターブや完全5度の響きに対し、波長がわずかに衝突し合う音の組み合わせは唸りを生む。西洋の音楽理論では、中世において「悪魔の音程」と忌み嫌われたトライトーン(三全音)に代表されるように、不協和な響きは長らく回避すべき対象だった。
しかし、ドラマは常にその濁りの中に宿る。緊張(Tension)が存在するからこそ、その後に訪れる解決(Resolution)の響きが魂を震わせる。クラシックの巨匠たちも、ジャズの即興演奏家たちも、あえて不安定な音をぶつけ合うことで聴き手の感情を支配してきた。耳障りなノイズは、表現者が物語を前進させるためのもっとも鋭利な武器なのである。