静かな熱狂は、突然始まったわけではない。根底にあるのは、空前のレトロカルチャー人気だ。平成レトロのアイコンとして若者が再発見したフィルムの質感は、SNSのフィルター処理では決して再現できない「生々しさ」を漂わせる。
映画『花束みたいな恋をした』の劇中で登場人物たちが何気ない日常をフィルムに収めていたシーンは、記憶に新しい。あの作品が放った独特の空気感は、若年層の所有欲を刺激した。さらに写真家・奥山由之氏に代表されるクリエイターたちが、静謐で叙情的な表現手段としてフィルムを果敢に提示したことも大きい。淡い光の滲み、影の重たさ。デジタルが捨て去った曖昧さの中にこそ、真実が宿ると彼らは知っている。