ナゴの守がなぜタタリ神と化して東の果てまで逃れてきたのか。その直接の原因となったのが、タタラ場を率いるエボシ御前が開発・実戦投入した「石火矢(いしびや)」の存在です。
アシタカが討ち取ったタタリ神の遺体から発見されたのは、骨を砕き肉を焼き爛れさせていた「一塊の鉛の弾」でした。従来の弓矢や槍であれば、神の強靭な肉体はいずれ治癒したかもしれません。しかし、明国から導入された火薬兵器を改良した石火矢の弾丸は、ナゴの守の体内深くに留まり、消えることのない猛烈な灼熱と激痛を何日も与え続けたのです。
エボシ御前にとって、石火矢は鉄を掘り出す山を切り開き、病者や売られた女性たちを生かすための「進歩と解放の技術」でした。しかしその人間側の正義は、森の主にとっては容赦なき侵略と虐殺に他なりません。生きながら肉体を腐らせる鉛の毒と激痛に耐えかね、誇り高きナゴの守の心は狂気に染まり、盲目的な憎悪の塊であるタタリ神となって暴走することになりました。