「家庭で作るとどうしても水っぽくなってしまう」「お店のように味が中まで入らない」という悩みの原因は、豆腐に含まれる遊離水(組織に結合していない水分)にあります。中華の名店において、豆腐の下茹でを省く料理人はまず存在しません。この工程には、調理科学に基づいた3つの決定的な理由が存在します。
第1の理由は、浸透圧による余分な水分の排出と身の引き締まりです。約1%の塩(水500mlに対して小さじ1弱・約5g)を加えた微沸騰のお湯で豆腐を茹でると、浸透圧の働きで豆腐内部の水分が外へ押し出されます。同時に、タンパク質が熱によって適度に凝固するため、表面にハリが生まれ、煮込み工程でヘラや鍋肌に触れても崩れにくくなります。
第2の理由は、餡が水っぽく薄まる現象(離水)の完全防止です。下茹でをせずに冷たいまま、あるいは単に水切りしただけの豆腐を熱い餡に加えると、餡の塩分によって急激に豆腐から水分が溢れ出し、せっかく決めた味付けが薄まり、とろみが分解してシャバシャバになってしまいます。下茹でで事前に余計な水分を抜いておくことで、最後まで濃厚なとろみをキープできます。
第3の理由は、豆腐の中心温度を上げて味の浸透を促すことです。下茹でによって豆腐の中心まで70〜80℃程度に温めておくと、調味液に投入した際に餡の温度が急低下しません。これにより、短い煮込み時間でも豆腐の芯まで熱々になり、表面から効率よく旨味と調味料が浸透していきます。