医学や心理学の観点からも、このブームは大きな注目を集めている。一定の規則性を持って手を動かし、色を選ぶ行為は、脳の偏桃体の過剰な活動を抑え、自律神経のバランスを整える刺激を与えるという。医療や福祉の現場で導入されてきたアートセラピーの手法が、日常的なセルフケアとして一般に普及した形だ。
この流れを牽引しているのが「大人の塗り絵」と呼ばれるジャンルの成熟である。複雑に入組んだ幾何学模様や緻密な街並み、情景豊かなイラストに無心で取り組むことで、マインドフルネスに近い精神的静寂が得られると評判だ。
仕事終わりにデスクの照明を落とし、1日15分だけ色鉛筆に向き合う時間を作るビジネスパーソンも少なくない。ストレスフルな生活のなかで、一切の判断を求められず、自由に色彩を配置できるプライベートな空間が、心の安定をもたらすオアシスとなっている。