ぶぶ漬けが「客を追い返す合図」として定着した決定的なルーツは、江戸時代から伝わる古典落語の演目『京の茶漬け』にあります。
噺のあらすじは明快です。京都の町家を訪れた長居好きの男に対し、困り果てた家の主人が「何のお構いもできませんが、ぶぶ漬けでも…」と社交辞令を口にします。京都の習慣をよく知る男は、内心「早く帰れという意味だな」と勘づきながらも、あえて「それならご馳走になろう」と居座ることで、主人が大慌てで台所の残り飯をかき集めるという滑稽噺です。
ちなみに「ぶぶ」とは、京都の古い方言で「お茶」や「お湯」を指す幼児語・女房言葉に由来します。京都では古くから、食事の締めくくりや手軽な軽食として日常的にお茶漬け(ぶぶ漬け)を食べる習慣がありました。「何もないけれどお茶漬けくらいなら」という謙譲の表現が、落語のユーモアを通じて「帰宅を促す暗号」として全国へ広まっていったのです。