物語の核心を成すのは、主人公である間貫一と、その許婚(いいなずけ)であったお宮の凄絶な別れだ。銀行家の富豪・富山唯継に見初められ、金銭の誘惑に負けて貫一を棄てたお宮。月夜の熱海海岸で貫一がお宮を蹴り倒し、「今月今夜のこの月を……」と言い放つ名場面は、日本のメロドラマの原型として語り継がれている。
しかし、単なる「女の裏切り」と「男の復讐」という構図だけで語ることはできない。貫一がその後、高利貸しへと身を落とし、金を力として人間を弄ぶ夜叉へと変貌していく姿には、明治文学が直面していた金権社会への激しい怒りが込められていた。金に買われた愛に対する絶望が、彼を金の亡者へと変えたのだ。金の魔力がいかに人間性を破壊し、真実の絆を切り裂くかというテーマは、現代を生きる私たちの胸にも深く刺さる。