この長大な旅路の中で、歴史上最も特筆すべき出来事が起きたのが京都でした。時の中御門天皇(なかみかどてんのう)が「生きた象を一目見たい」と強い希望を抱いたのです。
しかし、ここで朝廷の格式に関わる重大な問題が生じました。御所に入って天皇に拝謁するためには、相応の身分や官位が必要です。無位無冠の「ただの動物」を御所へ入れることは、古代からの宮中儀礼上あり得ないことでした。
そこで朝廷は、象に対して異例中の異例となる「従四位(じゅしい)」の官位を授けました。従四位といえば、名門の大名や幕府の高官に匹敵する極めて高い身分です。こうして「官位を持つ高貴な象」となった象は、正式に「広南従四位白象(こうなんじゅしいはくぞう)」の名を与えられ、紫宸殿の前で見事に前脚を折り曲げて拝礼の仕草を披露し、天皇や公家たちを大いに喜ばせました。