黒死牟の最期は、少年漫画史上に残る凄惨かつ哀切極まる名シーンとして知られています。岩柱・悲鳴嶼行冥、風柱・不死川実弥、霞柱・時透無一郎、そして不死川玄弥という鬼殺隊最強戦力の決死の総攻撃を受け、頸を刎ねられた黒死牟。しかし、彼は自らの弱点である頸の切断すら克服し、頭部を再生させて異形の怪物へと変貌を遂げます。
しかし、再生した己の醜悪な姿(角が生え、牙が剥き出しになった、もはや侍とは呼べない化け物の姿)を実弥の刀身の反射で見た瞬間、黒死牟の心に決定的な動揺が走ります。「これが…私の望んだ姿なのか? 侍の姿かこれが?」という激しい自己嫌悪。さらに無一郎の赫刀による攻撃と玄弥の血鬼術が体内から作用し、肉体が急速に崩壊を始めました。
肉体が灰となって散り逝く最後の瞬間、黒死牟の脳裏に去来したのは、かつて80歳を超えてなお圧倒的な強さを保ち、自分の前で立ったまま寿命を迎えて息絶えた弟・縁壱の姿でした。そして、灰燼と化した着物の残骸の中から転がり落ちたのは、数百年前、幼き日の縁壱が兄を慕って大切に肌身離さず持ち歩き、老いた縁壱の遺体から回収した「兄が手作りした粗末な笛」でした。
「私はただ、お前になりたかったのだ」――どれほど憎悪し、否定し、記憶から消し去ろうとしても、黒死牟の着物の内側にずっと抱かれていたのは、弟との純粋な思い出の証である笛でした。弟を憎みながらも、誰よりも弟を愛し、その存在に焦がれ続けた巌勝の矛盾に満ちた魂は、永遠の虚無へと消え去ったのです。