声のプロを目指す者が必ずと言っていいほど直面するのが、日本の伝統芸能である歌舞伎の演目『外郎売(ういろううり)』だ。劇中、薬売りが客の前で薬の効能を立て板に水のごとく喋り立てるセリフが、現代における音声トレーニングの最高峰として君臨している。
「拙者親方と申すは、お立会の中に御存知のお方も御座いましょうが…」という有名な切り出しに始まる長大な台詞には、日本語の発声に必要なあらゆる音素の組み合わせが凝縮されている。単なる早口言葉の枠を超え、呼吸の維持、高低アクセントの制御、遠くへ音を飛ばす伝導力を一挙に鍛えられる点に、この演目が長年重宝されてきた真価がある。