かつて刊行され、知識人層のみならず広範な読書界に衝撃を与えた『未完のファシズム』。この代表作で片山杜秀氏が提示したのは、戦前日本が突き進んだ破滅への隘路が、決して過去の特殊な狂気などではなかったという冷徹な事実である。合理性を突き詰めたはずの官僚機構や軍部が、なぜ非合理な精神主義へと雪崩れ込んでいったのか。その構造的欠陥を解剖するメスは、驚くほど現代のシステム疲弊にもそのまま当てはまる。
文藝春秋をはじめとする論壇誌や各種メディアでの最新評論活動において、片山氏の視点はさらに鋭さを増している。混迷が深まる2026年の日本社会へ向け、氏が投げかける提言の核心は極めて明快だ。歴史を都合の良い物語として消費する態度を捨て、自らが無意識に抱え込む「思考の盲点」を直視せよ、という警告である。停滞する政治、漂流する言論空間、そして漂白されていく個人の危機感。氏の思考の軌跡を追体験することは、私たちが知らず知らずのうちに陥っている思考停止の罠から抜け出すための解毒剤となるだろう。