音楽理論の基礎知識において、分散和音とは和音を構成する複数の音(コードトーン・和音構成音)を一度に鳴らすのではなく、時間をずらして1音ずつ、あるいは部分的に分けて演奏する手法を指します。英語では「Broken chord(ブロークン・コード)」、ドイツ語では「gebrochener Akkord」、イタリア語では「accordo spezzato」と呼ばれ、文字通り「崩された和音」という意味を持ちます。
ここで重要なのが、同時和音と分散和音の比較です。鍵盤や弦を同時に捉える同時和音は、垂直方向の分厚い響きを生み出し、楽曲の骨格や強烈なアクセントを提示する際に絶大な効果を発揮します。しかし、同時和音ばかりが連続すると、サウンドの重心が重くなり、メロディの居場所を圧迫してしまうケースが少なくありません。
一方、分散和音はコードトーンを水平方向の時間軸へと展開します。例えば、ド・ミ・ソの和音(Cメジャー)を「ド→ソ→ミ→ソ」や「ド→ミ→ソ」と順に鳴らすことで、和音としてのハーモニー感を維持したまま、伴奏そのものにメロディのような流麗な動きと軽やかさを付与できます。音響心理学やアコースティック物理の観点からも、同時打鍵による過度な音圧を回避し、楽器本来の豊かな倍音を濁りなく空間に響かせる効果を持っています。