「うちの料理に詳しいレシピなんてないよ。手で混ぜて、自分の舌と感覚で確かめるだけ」——そう笑うのは、新大久保で40年近く店を切り盛りするパク・スンジャさん(68)だ。大鉢に盛られた自家製キムチは、仕入れた白菜の水分量やその日の気温によって酸味や辛味が微かに変わる。だが、常連客にとってその揺らぎこそが「生きている料理」の証なのだ。
タイパ(タイムパフォーマンス)を極限まで追求する現代社会では、ミリ単位で味覚がコントロールされたチェーン店の食事が溢れている。しかし、どれほど合理的であっても、完璧すぎる味にはどこか無機質な寂しさがつきまとう。オモニ(韓国語でお母さん)の手仕事が生み出す不揃いな料理は、整然としすぎた日常に疲れた現代人の心へ、思いがけない安心感を投げかけている。