舞台は昭和40年代の大阪。風情ある街並みが残る大阪府大阪市中央区難波の一角に、今や伝説となった食堂「千とせ 本店」がある。近隣には吉本興業の本拠地である「なんばグランド花月」がそびえ立ち、日々多くの芸人たちが楽屋と街を行き来していた。
ある日の昼下がり、吉本新喜劇の看板俳優であった二代目座長・花紀京が、二日酔いの重い足取りで暖簾をくぐった。胃がすっかり疲れていた花紀は、店主に「大将、肉うどん、うどん抜きで」と注文を飛ばしたという。これこそが、肉吸いがこの世に産声をあげた歴史的瞬間だった。
出汁の旨味と牛肉のコクが疲れた身体を癒やすと噂は瞬く間に広がり、坂田利夫をはじめとする看板芸人たちがこぞって注文する名物へと進化を遂げた。「腹にやさしくて、力が出る」――喜劇の巨匠たちが愛した一杯は、笑いの街・難波の熱気と共に今日まで大切に守られている。