自己肯定感と存在価値は密接に結びついていますが、ここには多くの人が陥る重大な心理的トラップが存在します。それが「条件付きの自己受容」です。
臨床心理学や精神分析の知見では、人間の自己価値感は大きく2つの階層に分かれます。一つは「何かができるから価値がある」という機能的価値(Doing/Having)、もう一つは「ただ生きているだけで価値がある」という根源的存在価値(Being)です。多くのビジネスパーソンは、業績、学歴、役職、SNSのフォロワー数といった機能的価値ばかりで自らの存在を証明しようとします。しかし、この条件付き価値に依存していると、一度プロジェクトで失敗したり体調を崩してパフォーマンスが落ちた瞬間に、自らの存在理由そのものが足元から崩壊してしまいます。
心理学から見る存在理由を紐解く上で欠かせないのが、アルフレッド・アドラーの個人心理学と、精神科医ヴィクトール・フランクルが提唱した「実存分析」の視点です。
アドラーは、人が幸福を感じる源泉は「共同体感覚」であり、その根幹は「私は誰かの役に立っている」という主観的な貢献感にあると説きました。重要なのは、実際に他者から感謝されたかどうかではなく、自らの主観において「貢献できている」と感じられるかどうかです。他者の承認を存在理由の前提にしてしまうと、心理的バウンダリー(境界線)が崩れ、他人の顔色ばかりを伺う承認欲求の奴隷になってしまいます。
また、ナチスの強制収容所を生き延びたフランクルは名著『夜と霧』の中で次のような逆転の思考を提示しました。「人間が人生の意味を問うのではない。人間は人生から絶えず問いかけられており、その問いに対して自分の生を引き受けて応答していく責任があるのだ」。自分が世界に何を与えられるかと思い悩むのではなく、今置かれた状況や目の前の人間関係が、自分に何を求めているのかに耳を澄ませること。この態度の転換こそが、折れない存在価値を再構築する鍵となります。