数多くの傑作を世に送り出してきた朝井まかて作品の中で、「まず最初に読むべき最高傑作」として文芸関係者や熱心な読者が口を揃えるのが、第150回直木三十五賞を受賞した『恋歌(れんか)』です。本作は、明治の文豪・樋口一葉の師匠であり、自身も高名な歌人であった中島歌子の波乱に満ちた半生を描いた歴史時代小説の金字塔です。
水戸藩の武士・林忠左衛門と恋に落ち、幕末の尊王攘夷の動乱「天狗党の乱」によって最愛の夫を失う歌子。逆賊の妻として投獄され、過酷な拷問と飢えに耐えながらも、彼女を支え続けたのは夫への狂おしいほどの愛と歌の力でした。単なる歴史の再現にとどまらず、極限状態における人間の尊厳と情念を描き切った本作は、「読む者の心を鷲掴みにする」と圧倒的な評判を呼び、朝井まかての名を全国区へと押し上げました。
一方で、美術や職人の世界に惹かれる読者にとっての最高峰が、中山義秀文学賞に輝いた『眩(くらら)』です。浮世絵師・葛飾北斎の娘として生まれ、自らも天才的な絵師であったお栄(葛飾応為)の生涯を描いた名作。父の影に隠れながらも「光と影」の表現に憑りつかれ、絵筆を握り続けたお栄の生き様は、読む者の胸を熱く焦がします。繊細な色彩描写と江戸っ子気質の歯切れのよい会話劇が融合した、文句なしの傑作です。