波乱に満ちた生涯を送った北野菊次郎は、1979年(昭和54年)、足立区内の病院で静かに息を引き取りました。死因は長年の飲酒がたたったことによる肝不全(肝硬変)でした。享年80前後とされています。
臨終の際、病床に駆けつけた家族に対し、菊次郎は苦しい息の下からある言葉を絞り出しました。生前、一番反抗的でまともに口を利かなかった末息子の武のことを気にかけ、周囲に「武を呼んでくれ」と懇願し続けたといいます。
後日、菊次郎の遺品の中から見つかったメモには、震える筆跡でこう記されていました。
「武へ。お前には何も残してやれなくてすまない。母ちゃんを大事にしてやれ」
財産も名誉も残せなかった不器用な父親が、生涯で初めて息子へ直接向けた謝罪と愛情のメッセージでした。ビートたけしはこの手紙を目にした際、人目を憚らず号泣したと語っています。互いに素直になれなかった父と息子の長きにわたる精神的確執は、死という別れを通じてようやく和解へと至ったのです。