多くの技術者や消費者団体がカードの撤廃やソフトウェア方式への移行を訴えながら、なぜB-CASカードは長年にわたって廃止されなかったのでしょうか。そこには放送業界、家電メーカー、そして官公庁が複雑に絡み合った複数の要因が存在します。
第1に、放送業界が強硬に主張した「受信料と有料放送のプラットフォーム維持」です。NHKにとってB-CASは受信契約の把握や設置確認メッセージの表示に不可欠なツールであり、有料BS/CS放送事業者にとっても顧客管理の基盤となっていました。無料地上波単体で見れば不要な仕組みであっても、放送インフラ全体を一括コントロールする都合上、カードによる物理的な個体識別を手放したくなかったという思惑が働いています。
第2に、既得権益化した組織の解体に対する強烈な抵抗です。B-CAS社をはじめ、仕様策定を行う一般社団法人電波産業会(ARIB)など、関連団体には多くの関係者が天下り先として依存していました。カードを廃止してオープンな暗号化技術に切り替えれば、これら組織の存在意義と安定した資金源が消失してしまいます。結果として「著作権者の保護」という建前を盾に、利便性の改善や抜本的な制度改革を先送りし続けたのです。