医療情報が溢れるインターネット空間には、肝機能数値を巡る誤解やデマが少なくありません。良かれと思って取っていた行動が、かえって検査数値を狂わせているケースが後を絶ちません。
第一の盲点は、「健康のためのハードな筋力トレーニング」が引き起こす見かけ上の異常高値です。健康志向の高まりとともに、日常的に高重量のウエイトトレーニングやクロスフィットに励む人が増えています。しかし、激しい運動によって筋線維が微細断裂を起こすと、骨格筋内に含まれていた大量のASTおよびクレアチンキナーゼ(CK/CPK)が血中に一気に溢れ出します。健診前日の夕方にハードな脚のトレーニングを行った結果、ASTだけが150 U/Lまで急上昇し、肝機能障害を疑われて精密検査に回されるという「筋トレ偽陽性」が多発しています。正確な肝臓の状態を把握するためには、採血前48時間は筋肉を過度に追い込む運動を控えるのが鉄則です。
第二の盲点は、「肝臓に良いとされる健康サプリメントや漢方薬」による薬物性肝障害です。「ウコン(クルクミン)」「高濃度プロテイン」「海外製ダイエットサプリ」などを毎日過剰に摂取した結果、肝臓の代謝処理能力を超えたりアレルギー反応を起こしたりして、AST・ALTが突如500〜1000 U/L規模まで大暴走するケースが厚生労働省の有害事象報告でも多数上がっています。「サプリメント=安全」という先入観は極めて危険です。
そして最も恐ろしい誤解が、「数値が過去の異常値から急激に下がって正常値に戻ったから治った」という錯覚です。重度の慢性肝疾患が進行して肝硬変の末期に達すると、破壊されるべき正常な肝細胞そのものが減少し尽くしてしまうため、血中へ漏れ出るASTやALTの絶対量が減り、数値が見かけ上「正常化」することがあります。肝機能を評価する際は、アルブミン値、血小板数、プロトロンビン時間など、肝臓の「合成能力」を示す複合的なデータと照合しなければ真の病態は見抜けません。